個人再生は家族・勤務先に内緒でできるのか?
できれば、個人再生は家族や勤務先にも知られずに申立てしたいものです。
実際に家族や勤務先に内緒で個人再生を申し立てることができるのでしょうか?
また、家族や勤務先に内緒で申し立てるデメリットはないのでしょうか?
今回は、そんな疑問にお答えします。
このコラムの目次
1.家族に内緒で個人再生の申立て
結論から言えば、家族に内緒で個人再生を申立てることは、できなくはありません。
しかし、裁判所に提出する申立書の添付資料には、どうしても家族の協力がないと揃わないものも含まれています。これらの書類を自力で準備できるかどうかがポイントといえるでしょう。
また、それ以外にも家族に内緒にしておくことが難しい場面があるので、以下の条件をすべてクリアできるかどうか考えてみてください。
(1) 申立書類の準備
個人再生の申立書には、世帯の収入状況や生活状況が分かる資料を添付します。
主に問題となるのは次のような資料ですが、現実には主婦などの家計管理者でなければ自力で準備するのは難しいかもしれません。
①家族の(非)課税証明書の申請
世帯の収入状況を示す資料として、課税証明書を提出します。
課税証明書とは、1年間(1月1日~12月31日)の所得金額が記載されている証明書で、市町村役場で交付してもらうことができます(有料)。
自治体によっては「所得証明書」と呼んでいることもあります。
家族に収入がない場合には「非課税証明書」が必要となりますが、同居している家族分であれば本人でなくても請求できます。
また、世帯収入を明らかにする資料なので、原則として同居していない家族の課税証明書は不要ですが、たとえば、同居していない家族から援助を受けている場合、あるいはその逆で仕送りしている場合などには、その家族分の課税証明書が必要になる可能性もあります。
同居していない家族の課税証明書を取得するためには、その本人から委任状が必要になります。
委任状を本人に無断で作成するのは当然NGです。
②家族の収入を証明する資料
個人再生を申し立てる際には、課税証明書だけではなく、実際の「給与明細」や「源泉徴収票」なども必要となります。
先ほど説明したとおり、課税証明書は本人でなくても入手できますが、給与明細は難関です。
突如、「直近2か月分の給与明細を渡してほしい」と頼むわけですから、家族に不審がられることは想像に難くありません。
こっそりコピーしようにも、そもそも給与明細の保管場所が分からない、という方も多いでしょう。
③家計簿
世帯収支がもっとも分かりやすい資料が「家計簿」です。
そのため、個人再生の申立書類として、通常、2か月分の家計簿が必要になります。
この家計簿には、「家賃」、「食費」、「水道光熱費」、「通信費(携帯電話代)」といった詳細な記載が求められ、通帳や領収書の裏付けも必要となります。
したがって、自身で家計管理している方でない限り、自力で家計簿を作成するのは困難かもしれません。
(2) 家族が連帯保証人になっている場合
住宅ローンや奨学金等の借入時にご家族を連帯保証人としている場合は、個人再生を申し立てると、連帯保証人にも裁判所から通知が届きます。
そもそも、主債務者が個人再生を申し立てた場合には、連帯保証人にもストレートに影響が及ぶので、内緒にしておくかどうか迷う余地はありません。
(3) 裁判所の書面の受け取り
個人再生を申し立てると、裁判所から「開始決定」、「認可決定」といった決定書面が交付されます。
弁護士に申立てを依頼した場合には、これらの書面はすべて弁護士が受け取るため、自宅宛てに郵送されることはありません。
しかし、弁護士も依頼者に書類を渡さなければならないので、結局は何らかの方法で受け渡しが必要となります。
弁護士事務所まで受取りに行く、個人名で郵送してもらうなど、いくつかの方法が考えられますが、どれも一定の負担とリスクが伴います。
(4) 官報に名前が掲載される
官報(かんぽう)とは、簡単にいうと「国の広報紙」のようなもので、法令の公布や企業の決算公告などが掲載される日刊紙です。
官報の掲載情報には、破産や個人再生を申立てた場合の申立人の氏名も含まれます。
もっとも、官報は大量の情報が羅列されるだけで、到底、読みこなせるようなものではなく、実際に官報を購入する一般人も皆無です。
官報によって家族に知られる可能性は、ほぼゼロと考えてよいでしょう。
2.勤務先に内緒で申立てできるか
実は、個人再生を申し立てる際に、条件によって勤務先が無関係とはいえない場合があります。
そこで、次は勤務先に内緒で申立てできるか検討してみましょう。
(1) 勤務先からの借入がある場合
たとえば、勤務先の社内融資制度を利用して、借入れしている場合などは、勤務先が債権者となります。
この場合は勤務先の会社にも、裁判所から個人再生手続きに関する書面が送付されることになります。
特定の債権者だけ手続きから除外することはできないため、「どうしても勤務先には迷惑をかけられない」、「勤務先には絶対に知られたくない」という場合には、個人再生自体を断念せざるを得ないこともあるでしょう。
また、勤務先から直接お金を借りている場合だけではなく、勤務先を通じて「労働金庫」や「共済組合」から借りている場合にも同様の問題が起こります。
(2) 退職金見込額証明書の発行依頼
退職金も重要な財産の一部です。
たとえば、いま退職すれば1000万円の退職金を受給できる人が、個人再生を申し立てて、多額の借金をカットするのは不道徳といえます。
このような不都合が生じないよう、勤め先に退職金制度がある場合には、「現時点でいくら退職金が支給されるか」が分かる資料も提出しなければなりません。
退職金見込額証明書を必要とするもっともらしい理由でもあればいいのですが、通常、この証明書が必要になる場面はほとんどありません。
そのため、退職金見込額証明書の発行を依頼すると、総務人事系のベテランだと「破産か個人再生だな」と気付くかもしれません。
ただし、勤務先の退職金規程などから退職金見込み額が算定できる場合には、自作の計算書で代用が認められる場合があります。
(3) 官報
こちらは先ほど説明したとおりです。勤務先に官報マニアでもいれば別ですが、官報によって勤務先に知られる可能性は限りなく低いといえます。
3.そもそも個人再生を内緒でするべきか
勤務先に個人再生の事実を打ち明けて、理解や協力を得る必要性はありません。
勤務先に知られたくないと考えるはもっともでしょうし、実際に勤務先に内緒で個人再生を申し立てたとしても、特に不都合はないといえます。
実際に、多くのケースで勤務先に知られることなく個人再生の申し立てができると考えられます。
一方、これまで検討してきたとおり、家族に内緒で個人再生を申し立てるのはかなり難しいといえます。
仮に、家族に内緒で個人再生の申立てができるとしても、そもそも内緒にしておくことが望ましいかどうかよく考える必要があります。
たしかに、個人再生を申し立てることにより、返済負担はこれまでに比べて圧倒的に小さくなります。しかし、3年~5年の長期にわたり、再生計画を確実に実行するうえで、家族の協力や理解は不可欠といっても過言ではありません。
そこで、家族に内緒にしておくデメリットを二つ挙げますので、じっくり考えてみてください。
(1) 返済が行き詰った場合のリスク
晴れて再生計画の認可を受けられても、まだまだスタート地点にすぎません。個人再生は3年後(または5年後)に計画どおり完済することでようやくゴールを迎えるのです。
万一、返済の途中で行き詰った場合をシミュレーションしてみましょう。
たとえば、500万円の借金がある場合に、個人再生を申し立て、100万円を3年間で返済する再生計画を提出し、裁判所の認可を受けたとします。
仮に半分の50万円を支払ったところで返済が行き詰まったとします。
債権者が気長に待ってくれるなら構いませんが、債権者には、「再生計画の取り消し」を申し立てる権利があります。
もし、再生計画が取り消された場合、それまで再生計画に基づいて支払った分は考慮されますが、それ以外は振出しに戻ります。
500万円(もともとの借金)-50万円(個人再生で支払った金額)=450万円
つまり、これだけの借金が残ることになります。
家族に内緒にしていたために援助を求めることもできず、せっかくの個人再生が台無しにするリスクがあるのです。
もちろん、新たに借金して再生計画を実行するのは論外で、絶対にやってはいけません。
(2) 精神的な負担
家族に内緒にしておくことは、精神的な負担にもあります。
個人再生で大幅に借金をカットしたとはいえ、それでも100万円以上の負債を3年ないし5年間にわたって返済していくになります。
これをずっと秘密にしておくのは大変です。
預金口座を見られないか、個人再生の関係書類が見つからないか・・常に気を遣う生活が続くのはどうでしょうか。しばらくはカードやローンの審査にも通らなくなるでしょう。
何事もなかったかのように装うことが精神的な負担になるおそれがあります。
4.まとめ
勤務先に内緒で個人再生できる可能性は高く、そもそも、勤務先に内緒で個人再生を申し立てたとしても、不都合が生じる可能性は低いといえます。
一方、家族に内緒で個人再生を申し立てるのはかなり難しく、仮に内緒で申立てできるとしても、内緒にしておくべきかどうかよく考える必要があります。
家族ごとに事情があると思いますので、債務整理を専門とする弁護士に相談して、最善の方法を考えてみましょう。
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