むち打ちの後遺障害等級は何級?保険会社が提示する慰謝料は正しいか
交通事故でむち打ちになった場合、痛みや頭痛、吐き気などを本人が自覚しているにも関わらず、後遺障害等級を認定されないというケースは少なくありません。
たとえ認定されても、慰謝料の額に納得がいかない被害者の方もいらっしゃるでしょう。
むち打ちの症状は、レントゲンやMRIの画像には映りにくく、自覚症状でしか説明できない場合も多いため、後遺障害に該当することを証明しづらいのです。
このような現状で、むち打ちの後遺症に苦しむ被害者の多くは、保険会社から提示された低額の損害賠償金で示談しています。
では、むち打ちの後遺障害で認定される等級は何級なのでしょうか?また、保険会社が提示している慰謝料は適正なのでしょうか?
ここでは、むち打ちで後遺障害に認定されるために必要な要件と、症状に見合った適切な慰謝料の額について解説します。
このコラムの目次
1.むち打ちの症状は多種多様
(1) むち打ちは首への損傷
むち打ちとは、交通事故の衝撃によって首に不自然な力が加わり、頸部(首)に損傷を受けることによって起こる症状のことです。
首に力が加わる際に首がS字にしなり鞭を打ったようになるためむち打ちと呼ばれています。
交通事故による傷害の半数がむち打ちだと言われるように、むち打ちの被害者は多く、その症状も多様です。主な症状は首の痛みですが、神経系への損傷が深刻になると、手足の痺れや頭痛、吐き気、めまいなどを伴う場合があります。
また、自覚症状があるのにレントゲンなどの検査結果に現れにくいこと、事故後すぐに症状が認められず数日過ぎてから現れる場合があること等がむち打ちの特徴です。
(2) 頚椎捻挫(けいついねんざ)
むち打ちの大部分が頚椎捻挫です。頚椎捻挫は、首の筋肉やじん帯、軟部関節組織が損傷し、首の痛みや首の可動域が狭められる症状を伴います。
さらに、神経を傷つけていると、手足のしびれや倦怠感、めまいなどの症状も併発します。
また、頚椎周りの筋肉を損傷し頸部挫傷と診断されることもあります。
(3) 神経根症状
神経がダメージを受けてさまざまな症状が現れるものです。
首の骨が衝撃をうけた際に元の位置からずれて脊髄から出る神経を支える神経根が圧迫されたり、引き伸ばされたりする傷害です。
首や腕の痛みや痺れ、倦怠感、後頭部の痛み、顔面痛などの症状が起こります。咳やくしゃみをしたり、首を曲げたり回したりする時に症状が強まる傾向があるようです。
(4) バレー・ルー症候群
事故の衝撃によってダメージを受けた神経が交感神経だった場合にこの型に当てはまるとされ、後頸部交感神経症候群とも呼ばれます。
脳や脊髄の血流が低下するため自律神経のバランスが崩れ、さまざまな症状を引き起こします。
頭痛やめまいのほか、耳鳴りや難聴、吐き気、不眠や全身の倦怠感なども伴います。なかには目のかすみ、流涙、動悸、発汗など、事故のダメージとの関係が分かりづらい症状も見られ、診断、治療が難しいとされています。
(5) 脊髄損傷
脊髄は脳から連続する中枢神経ですから、その損傷はむち打ちのなかで最も深刻です。
脊髄が損傷すると身体の麻痺や知覚障害、歩行障害が起こることがあります。
脊髄から足に向かって伸びている神経が損傷することで足の痺れなどを引き起こすのです。
重度の場合には歩行障害のほか、尿や便が出にくくなる膀胱障害や直腸障害が出ることもあります。
これらは後遺障害として残ってしまう可能性が非常に高いものです。
(6) 脳髄液減少症(低髄液圧症候群)
事故の衝撃で一時的に脊髄内の髄液圧が急上昇し、脳髄液がくも膜下から漏れている状態のことです。
初期症状として頭痛がすることがあり、慢性的なだるさや気圧変動による不調に悩まされるなど、多彩な症状が現れます。MRIなどの専門的な診断方法を用いないと診断は難しく、交通事故との因果関係は専門医に証明してもらう以外にないと言えます。
2.むち打ちと後遺障害
(1) むち打ちは14級か12級
むち打ちの大半を占める頚椎捻挫の場合、主に痛みや痺れなどの自覚症状によって後遺障害への該当の有無が判断されます。
認定される可能性のある後遺障害等級は、ほとんどが14級か12級です。
(2) 後遺障害14級9号
むち打ちの症状が14級9号「局部に神経症状を残すもの」に該当すれば後遺障害が認められ後遺障害慰謝料の請求が可能になります。
後遺障害14級は後遺障害等級のなかで最も低い等級ですから、14級に認定されなければ後遺障害は非該当となります。
頚椎捻挫によるむち打ちのうち、レントゲン画像等の他覚所見で痛みの原因を明確に把握できないものにつき14級に該当するかが審査されることになるのです。
つまり、14級の場合、他覚所見での医学的な証明にまで至らなくとも自覚症状での説明ができれば認定される可能性があります。
痛みや痺れなどの自覚症状に一貫性と連続性があり、治療経過の合理性などとも照らし合わせて神経症状が事故に起因するものであると医学的に説明できれば認定される可能性は高まります。
(3) 後遺障害12級13号
さらに、より重度の12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」になれば請求金額はより高額になります。
ただし、14級と異なり、残存した神経系統の障害が事故直後と症状固定時に検査画像などの他覚的所見によって医学的に証明できるものでなければなりません。
まず、レントゲンやMRIなどの画像でむち打ちの症状の原因となる脊髄や神経の圧迫を明確に確認できることです。
また、それら画像によって確認されている症状の原因と神経学的検査の結果が一致し、後遺障害の原因となる事故や傷害が相当重度で、かつ、残存する症状も重いものでなければなりません。
(4) 重篤なむち打ち
実際にむち打ちで後遺障害に認定された最も重いものでは、7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」があります。
また、9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当した例もあります。
ただ、これらは、12級の要件を満たし、かつ、神経系統の機能または精神に重篤な障害を残すほどの重いむち打ちに限ります。
また、その障害によって働くことができる仕事が相当限定されています。
ですから、むち打ちでこのような重い等級に認定されることは極めてまれです。
重度のむち打ち、あるいは他の障害を併発している場合には、病院や医師に相談するか、弁護士に専門的なアドバイスを受けることをお勧めします。
3.保険会社が提示している慰謝料は正しいか
(1) むち打ちが認められにくい理由
むち打ちで後遺障害等級が認められれば後遺障害慰謝料を請求することができます。
ただ、むち打ちの7割以上は頚椎捻挫ですし、頚椎捻挫で認められる可能性のある後遺障害等級は14級です。
14級は後遺障害の存否分ける最軽度の等級だとお話ししましたが、後遺障害該当性が肯定できるかどうかの判断が微妙な領域です。
この判断の難しさに、むち打ちが後遺症の認定を受けにくいとされる理由があります。
具体的な問題は、むち打ちは将来回復する可能性が考えられることです。また、他の後遺障害に該当する症状に比べると軽度のケースが多い点も挙げられます。
(2) 後遺障害診断書を適正に書いてもらう
これら問題の多くは、症状固定を行う時期と後遺障害診断書への記載内容で解決できる場合があります。
症状固定は、十分な治療を行っても症状の改善が見込めなくなった状態のことです。それを証明するのが後遺障害診断書ですから、十分な治療を経たことが証明できるように医師との話し合いを経て症状固定をするようにしましょう。
後遺障害診断書は主治医が書くものですから、むち打ちの後遺症を正式に認めてもらえる必要十分な内容を記載してもらうことが重要です。
(3) 後遺障害慰謝料を正しい額に
慰謝料は精神的苦痛に対する損害を賠償するものです。したがって、その金額は損害に対するとらえ方で大きく変動します。
ただし、少なくとも、後遺症が残っている場合には後遺障害等級の認定を受けて、後遺障害慰謝料を請求することを忘れないようにしましょう。
後遺障害慰謝料に納得がいかない場合には、保険会社との交渉が生じます。
専門性の高い内容と手続きは被害者の大きな負担となりますので、弁護士に相談するとよいでしょう。
4.むち打ちで非該当にならないために
(1) 14級に認定されるための要件
非該当となるケースに多くみられる理由を挙げてみました。
ご自身の状況と照らし合わせ、14級に認定されるための万全の準備をしましょう。
①事故の衝撃が軽微である
交通事故の衝撃が小さければ後遺障害が生じるほどのことはないと考えられています。
事故の状況は、事故当時の現場写真や修理の見積など自動車の損傷を明確にするもので証明するようにしましょう。
②通院の実績が乏しい
自覚症状が事故に起因するものであることを証明するには、事故直後から症状固定までの間、定期的に通院し治療の経過が証明されなければなりません。
最低でも週1回、事故後3か月程度は通院しておくことが重要でしょう。
③症状に一貫性と連続性がない
事故によるむち打ちの症状は治療を経ても一貫して回復の見込みがなく、痛みなどの自覚症状は症状が現れた初期から連続したものでなければなりません。
症状に一貫性と連続性がないと、むち打ちの症状が事故に起因するのではなく心理的なものにすぎないと判断される可能性が生じます。
ですから、治療や診断を受ける際にはその都度、痛みや痺れといった症状の具体的内容を主治医に伝え、カルテにも記載してもらうことが大切です。
④症状が軽微で重篤性・常時性がない
主治医に症状を伝えるときは、だるい、張っているなどといった漠然とした内容では伝わりづらく、そのままカルテに記載されて重篤な症状と判断されないケースも生じます。
また、後遺障害は一定の症状が常態的に現れるものでなければなりません。
症状の内容や発現の程度の説明は、できるだけ具体的にはっきりと明確な表現で伝えるようにすべきでしょう。
5.まとめ
交通事故の被害者への損害賠償をする保険会社は、保険金をでき得る限り少額で抑えようとするため、むち打ちの場合の保険金も例外ではありません。
他方、むち打ちの症状だけで多額の保険金を望むことには難しい面も多くあります。
たかがむち打ちと侮ると、仕事や生活に支障が生じる障害を負ったにもかかわらず後遺障害に認定されないということにもなりかねません。
慰謝料や治療費などの賠償金に納得がいかない、保険会社が提示してきた額が正しいのかよく分からないという方は、自己判断で示談に応じてしまわないように注意が必要です。
疑問を持ち不安になったら、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。弁護士に相談することで保険会社との煩わしいやりとりを一任することが出来、受け取る慰謝料を増額出来る可能性が高まります。
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