給与所得者等再生の返済額「可処分所得」の計算方法
給与所得者等再生とは、裁判所に借金などの支払総額を減らしてもらい、さらに長期の分割払いにすることで返済負担を軽減する「個人再生」という債務整理手続における手続の種類です。
個人再生の手続には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの種類があります。
小規模個人再生の方が使いやすいのですが、債権者に反対される可能性がある場合には、給与所得者等再生が利用されます。
給与所得者等再生は、債権者が手続に反対できません。
その代わり、給与所得者等再生の利用条件や債務整理の効果は、小規模個人再生よりも使いにくくなっています。
特に、自由に利用できるお金、つまり「可処分所得」が多い方は、給与所得者等再生で個人再生をしても、借金がさほど減らない恐れがあるのです。
このコラムでは、可処分所得の計算方法・給与所得者等再生と小規模個人再生の返済額など、給与所得者等再生の要件、返済額の基準である可処分所得とはどのようなものなのか、わかりやすく説明します。
このコラムの目次
1.可処分所得とは?
個人再生手続では、一定額以上の金額の借金を原則3年(最長5年)で支払いきる必要があります。
この支払計画は再生計画と呼ばれています。
再生計画による支払総額は計画弁済総額と言います。
再生計画の案が裁判所に認可されなければ、返済負担は減りません。
そのあとに計画通りに返済できないと、計画弁済総額まで減らされていた借金は、元の金額に戻ってしまう可能性があります。
そのため計画弁済総額はいくらになるかが、個人再生による債務整理が成功するかにおいてとても大切です。
そして、給与所得者等再生でのみ、可処分所得の2年分という金額が、計画弁済総額の基準となっています。
可処分所得とは、簡単に言ってしまえば、再主務者の収入から税金や生活費を差し引いたお金のことです。
処分することが可能な所得、つまり、自分が自由に使える収入です。
可処分所得の2年分が計画弁済総額の基準として追加されてしまっているために、給与所得者等再生は、小規模個人再生よりも計画弁済総額が大きくなってしまいやすくなっています。
2.可処分所得の計算方法
(1) 可処分所得は収入から税金や生活費を引いたもの
再生計画中の可処分所得がいくらになるかは、将来のことですから手続の段階では確実にはわかりません。
そこで、裁判所に再生計画の案を提出する前に、いくら可処分所得があったかを計算して、計画弁済総額の基準にします。
特別な事情がなければ、一般的な可処分所得の計算方法は以下の通りです。
① 計画案提出前2年間の収入合計額から税金などを引きます
② ①を2で割って、税金などを除いた収入の1年間の平均を出します。
③ ②から、政令が定める最低生活費を引きます。
この③が、1年あたりの可処分所得になります。
給与所得者等再生での返済額の基準は、可処分所得の2年分ですから、③を2倍した金額となります。
税金などについて
税金の支払は国民の義務ですから、真っ先に差し引かれます。
具体的には、実際に支払った所得税・住民税・社会保険料(健康保険料や年金保険料など)の金額です。
生活費について
どんなに節約しても、食費や水道光熱費などの最低限の生活費は、債務者が自由に使えませんから、税金同様に収入から引くことになります。
もっとも、差し引く金額については、税金と異なり、実際の生活費ではなく、年齢や住所などに応じて決められている金額が用いられます。
債務者が養っている家族や親族がいる場合には、その生活費も差し引かれます。
養っていると言えるかどうかは、家族の収入が103万円以下かどうか(2019年4月現在)で決まります。要するに、所得税法上の配偶者控除や扶養控除の基準がそのまま利用されています。
別居の家族、たとえば、一人暮らしをしている大学生の子どもや実家の親の生活費も対象になります。
なお、同一家計の同居家族の収入は、可処分所得の計算の中で債務者の収入に加算されませんから、同居親族が高収入であっても、可処分所得が高額になることはありません。
特別な事情
計画案の提出前2年間に、転職などで収入が変わっていた場合は、可処分所得の計算方法が少し変わります。
具体的には、「20%以上、収入が変動したとき」「収入の変動幅が、20%以上から20%未満になったとき」には、そのときから再生計画案を提出するまでの期間の債務者の状況を基準として、可処分所得が計算されます。
3.小規模個人再生と比べた返済額の具体例
可処分所得は、債務者の収入や家族関係など、具体的な事情により大きく金額が上下します。
もっとも、一般的には、他の計画弁済総額の基準よりも大きな金額になりがちです。
遅くなりましたが、小規模個人再生と給与所得者等再生に共通する、可処分所得2年分以外の基準と、計画弁済総額の決め方を説明しましょう。
(1) 計画弁済総額の決め方
個人再生をして借金総額を減らしても、この金額までしか減らせない。それが計画弁済総額です。
小規模個人再生では、計画弁済総額は、以下の基準のいずれか大きい金額に決められます。
給与所得者等再生では、下の二つに加えて可処分所得2年分が基準に追加されます。
①最低弁済額
元の借金総額に応じて、法律が定めている基準です。
借金の額 | 最低弁済基準額 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円~500万円未満 | 100万円 |
500万円~1,500万円未満 | 借金の1/5の額(100万円~300万円) |
1,500万円~3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円~5,000万円 | 借金の1/10の額(300万円~500万円) |
②清算価値
債務者が持っている財産のうち、自己破産すれば債権者に配当されてしまうものの金額です。
清算価値保障の原則というルールがあるために、清算価値よりも計画弁済総額を下げることはできません。
個人再生手続では、自己破産手続のように債務者の財産が配当されることはないからです。
(2) 小規模個人再生と給与所得者等再生の返済額の比較
ここでは、小規模個人再生と給与所得者等再生で、計画弁済総額がどれだけ異なるのか比べてみましょう。
具体的なケースごとに最低弁済額と可処分所得2年分を計算していきます。
清算価値は、債務者が持つ財産次第で、非常に大きく変わってしまうため、ここでは考慮しません。
※再生計画を提出した日は、平成29年4月以降とします。
※わかりやすくするために端数を必要に応じて切り捨てまたは切り上げしていることをご容赦ください。
①アパート住まいの独身35歳男性、年収460万円(東京23区在住)
・可処分所得の2年分
- 収入2年分:920万円
- 税金や社会保険料2年分:約200万円
よって、920-200=約720万円が2年分の手取り額です。
1年あたりの手取り額は約360万円になります。
さらに、政令に定められた生活費を引きます。
- 基本的な生活費:約100万円
- 働くための経費:約50万円
- アパートの賃料:60万円
合計約210万円が生活費の金額です。
なお、ここでいう基本的な生活費は現実の生活費を考慮しません。
しかし、アパートの賃料が政令に定められた賃料の基準額よりも少ない場合には、現実の賃料が採用されます。
ともあれ、1年あたりの可処分所得は、手取り額から生活費を引いた360-210=約150万円ですから、2年分の可処分所得は約300万円となります。
・最低弁済額と比較
最低弁済額が300万円を超える場合は、借金の金額が3,000万円を超えるときだけです。
ですから、3,000万円より大きい借金をしていない限り、このケースでは給与所得者等再生の方が小規模個人再生よりも返済額が大きくなってしまいます。
たとえば、借金が1000万円の場合、
- 小規模個人再生の返済額 200万円(最低弁済額は1000万円の5分の1である200万円となるため)
- 給与所得者等再生の返済額 300万円(可処分所得の2年分が最低弁済額の200万円を上回るため)
と、返済額に100万円もの差が出てしまうことになります。
このように、独身の方の場合、それなりの所得があると、ほとんどの場合は可処分所得が多くなります。
そのため、最低弁済額基準が採用された場合の小規模個人再生よりも、可処分所得の2年分による給与所得者等再生の方が、返済額がかなり多くなってしまいやすいのです。
独身・高所得だと、給与所得者等再生は小規模個人再生よりかなり不利と言えるでしょう。
②ローン付きマイホームに夫婦と小学生二人で住む40歳男性、年収600万円 東京23区在住
扶養家族が多くなると、話はだいぶ違ってきます。
・可処分所得の2年分
- 収入2年分:1200万円
- 税金や社会保険料2年分:約180万円
税金などが各種の控除制度により、収入のわりに独身の場合よりも少ないことには注意しましょう。
1年あたりの手取りは約510万円になります。
政令に定められた生活費では、家族それぞれの生活費が追加されます。
小学校高学年以上になると、教育費などもあり、子供一人当たりの生活費が大きくなります。
ここでは、説明が複雑にならないよう、子供の生活費の金額の細かい違いは考えません。
- 基本的な生活費:約270万円(一人当たり約50万円×4+世帯についての生活費70万円)
- 働くための経費:約50万円
- 住宅ローン:約90万円(※1)
家賃のように、住宅ローンも、政令の基準よりも少なければ、現実の1年あたりのローン支払い額が計算に利用されます。
270+50+90で、合計約410万円が生活費の金額です。
①の独身男性の生活費が約210万円ですから、実に200万円も多いことになります。
1年あたりの可処分所得は、510-410=約100万円、計画弁済総額の基準額である、2年分の可処分所得は約200万円となります。
個人再生では、どちらの種類の手続でも、「住宅資金特別条項」という制度を利用することで、マイホームを手放さずに借金整理が可能です。住宅資金特別条項を利用した場合には、住宅ローンの金額は、最低弁済額を決める借金の金額に含まれません。
ちなみに、清算価値についてもマイホームがどうなるか説明すると、不動産価値からローン残額が差し引かれ、ローンの方が大きければ、マイホームは清算価値に計上されません。
ただし、住宅資金特別条項を利用した場合は、再生計画に基づく返済と同時に住宅ローンの返済も、原則これまで通りに支払う必要があります。一切の減額は受けられません。
ローン付きマイホームがある方は、計画弁済総額とローンの二重払いが可能かが主な問題になります。
・最低弁済額と比較
最低弁済額が200万円を超えるのは、借金の金額が1,000万円を超えるときです。
借金が1,000万円オーバーなら、最低弁済額は、可処分所得の2年分よりも高額になり、計画弁済総額となります。
つまり、②のケースでは、小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、借金が1000万円を超えているのであれば、計画弁済総額は最低弁済額が採用され、変わらないことになります。
住宅ローンは、「住宅資金特別条項」を利用していると最低弁済額の借金としてカウントされません。
それでも、子どものための教育ローンなどで高額の借金を負ってしまう方は多いですから、借金が1,000万円を超えることは、②のケースでは珍しくありません。
①と②を比べてみてわかるように、子どもなど扶養家族が多いと、その生活費が可処分所得を計算する中で収入から差し引かれますから、意外と可処分所得の2年分が大きくなりません。場合によっては、可処分所得がマイナスになることすらあるぐらいです。
こうなれば、返済額の基準としてはもはや意味がありません。
そのため、思ったよりも、給与所得者等再生を利用しても計画弁済総額が大きくならないことがあります。
4.個人再生は泉総合法律事務所藤沢支店へご相談下さい
給与所得者等再生は、債権者が個人再生に反対していても利用できる大きなメリットのある個人再生手続です。
しかし、その代償に支払総額の基準として可処分所得2年分が追加されてしまいます。
可処分所得の計算のために収入から引かれる生活費は、現実の生活費ではなく、政令で定められている生活費です。
これはまさしく最低限のものであるため、可処分所得の額が、収入の額より大きく減少することは余りありません。
そのため、わずかでも可処分所得を減らせないか、あらゆる道筋を探る必要があります。
また、そもそも債権者が反対する可能性がさほどでもなく小規模個人再生で手続が出来るのでないかということも検討しなければなりません。
このような判断は、個人再生を含む債務整理に精通した弁護士でなければ困難です。
泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題について、給与所得者等再生を含む個人再生で解決してきた確かな実績があります。所属する弁護士には多数の債務整理のエキスパートがおります。
藤沢市、茅ケ崎市、鎌倉市、東海道線・小田急江ノ島線沿線にお住まい、お勤めの方の個人再生は、泉総合法律事務所藤沢支店へご相談下さい。
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