器物損壊罪で逮捕されることはあるのか?
何かのトラブルの拍子に、他人の物を壊してしまった場合、器物損壊の罪に問われてしまう可能性があります。
「器物損壊罪」はよく聞く言葉ですが、具体的にはどのような罪なのでしょうか。物を壊して逮捕・勾留されてしまうことはあるのでしょうか。
また、裁判になることはあるのか、前科はついてしまうのかなど、様々なことが不安になるかと思います。
以下においては、器物損壊罪とはどのような犯罪なのか、罪を犯してしまった場合に考慮すべきことや、手続上での対処法などについて説明します。
このコラムの目次
1.器物損壊罪とは
器物損壊罪は、他人の物を損壊し又は傷害することによって成立します(刑法261条)。
この場合、3年以下の懲役か、30万円以下の罰金又は科料(1,000円以上1万円未満)に処せられます。
(1) 器物
器物損壊罪の対象となる器物とは、「他人の物」です。
ここでいう「他人」は私人でなくともよく、共有物は相互に他人の物となりますが、無主物は他人の物には当たりません。
また、ここでいう「物」とは、財産権の目的となる一切の物をいいます。
ただし、法文上、刑法258条~260条に規定されている物は除外されますから、器物損壊罪の客体となる物は、公務所の用に供する文書又は電磁的記録、権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録、及び他人の建造物又は艦船以外の他人の物ということになります。
器物損壊罪の客体となる「物」について、具体的に見てみますと、刑法258条、259条の定める文書等を除くその余の物品、建造物を除く土地その他の不動産、艦船を除く航空機、汽車、電車、自動車等の乗物、さらに動植物ということになります。
また、自己の物でも、差押えを受け、物権を負担し、又は賃貸した物は、器物損壊罪の客体となります(刑法262条)。
(2) 損壊
「損壊」とは、器物の効用を減損する行為を指すと解されています(判例)。
では、もう少し、裁判例に即して、具体的に見てみましょう。
「損壊」とは、単に器物を物質的、有形的に変更又は毀損する場合だけでなく、物質的、有形的に変更、毀損を加えないまでも、これを著しく汚損して、その美観を害し、事実上又は感情上その物を本来の用途に使用しえない状態にする場合をも含みます。
したがって、判例上、営業用の食器に放尿すること、政党の演説会告知用ポスターに「殺人者」、「人殺し」などと印刷されたシールを貼付することなどは、物の効用を減損するものとして、「損壊」に当たるとされています。
傷害とは、動物について用いられる用語であり、殺傷することのほか、判例上、他人の飼育する魚を養魚池外に流出させるような行為も含まれるとされています。
2.器物損壊罪の成否
器物損壊罪が成立するためには、客体が他人に属すること、及び、損壊や傷害の行為により、客体を物質的、有形的に変更・毀損し又は客体を本来の用途に使用しえない状態にするとの認識を有することが必要であると解されています。
したがって、他人の物を損壊するという認識を欠く場合、すなわち故意がない場合には、器物損壊罪に問われることはありません。
そして、器物損壊罪には未遂を処罰する規定がなく、また、過失犯を処罰する規定もありませんので、未遂犯及び過失犯では、処罰されないことになります。
また、器物損壊罪は親告罪ですので、告訴がなければ処罰されることはありません。
ビラ貼り行為については、器物の美観や効用を害したとまではいえない場合、また、汚損行為については、汚損の程度が軽く、器物本来の用途に使用することを妨げるほどに至らない場合には、器物損壊罪の損壊に当たりませんので、器物損壊罪は成立しません。
しかし、これらについては、軽犯罪法1条33号で処罰(1日以上30日未満の拘留又は1000円以上1万円未満の科料)される場合があります。
3.器物損壊罪で逮捕される場合
平成30年版犯罪白書及び2017年検察統計年報(以下、併せて「統計」と言います。)によれば、平成29年の毀棄・隠匿の罪のうち、器物損壊罪が約88.2%を占めています。
そして、器物損壊罪を犯した者のうち、逮捕された者は約41.6%、勾留された者は約25.2%となっています(なお、身柄状況に関して器物損壊罪のみの数字がないため、以上の割合は、毀棄・隠匿の罪の検察庁の終局処理人員の総数と器物損壊罪の検察庁の終局処理人員の総数との比較から推計したものです)。
上記の数字の推計から、器物損壊罪を犯した者のうち、約4割強の者が逮捕されていることになりますが、そのうち約62.3%の者が勾留されずに釈放されていることにはなります。
しかし、器物損壊罪の態様は多種多様であり、自動車・バイク・自転車のタイヤをパンクさせた場合、自動車・バイク・自転車に放火し公共の危険が発生しなかった場合、自動販売機を損壊した場合のような悪質な事案では逮捕を免れないものの、トラブルから他人の物を損壊したような場合、被害品が高額であったり、特段の前科があったり、常習的な犯行であったりという事情がなければ、逮捕される可能性は低いでしょう。
4.器物損壊罪で逮捕後の流れ
もし、器物損壊罪で逮捕された場合でも、被疑者の大半は、上記のように、勾留されずに釈放されている状況にあります。
しかし、事案によっては、被疑者は、逮捕から48時間以内に検察官に送致され、検察官は、被疑者を受け取ってから24時間以内に裁判官に対し、より長期の身体拘束を求める勾留の請求をします。
そして、裁判官は、検察官から勾留の請求がありますと、勾留質問を行って、その当否を審査しますが、罪を犯した疑いがあり、住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのいずれかに当たり、捜査を進める上で身柄の拘束が必要なときに、被疑者の勾留を認めます。
勾留期間は原則10日間ですが、悪質性の小さい、一般の器物損壊事件では、更に10日以内の勾留延長が認められるのは少ないようです。
5.器物損壊罪の量刑傾向
統計によれば、検察庁が器物損壊罪で送致を受けた者のうち、起訴した者の割合が19.1%、不起訴とした者の割合が80.9%となっています。
そして、起訴した者のうち、公判請求した者が41.9%、略式請求した者が58.1%です。
トラブルから他人の物を損壊した場合には、通常であれば、不起訴あるいは罰金で処理されることが予想されます。
仮に公判請求されたとしても、特段の前科があったり、執行猶予中であったりすればともかく、執行猶予となる可能性が高いでしょう。
6.器物損壊罪で考慮すべきこと
統計によれば、検察庁が器物損壊罪で送致を受け、不起訴とした者のうち、告訴の欠如(告訴がそもそもない)・無効(告訴期間経過後の告訴)・取消し(いったんした告訴が取り消された)で不起訴とした者の割合は59.5%、告訴が取り消されないため、起訴猶予で不起訴とした者の割合は17.2%となっており、両方を併せた割合は76.7%に及んでいます。
そして、これらいずれの場合においても、その要因として考えられるのが被害者との示談あるいは被害弁償です(ここでいう被害弁償とは、単に被害者に対して被害額の賠償をすることをいい、示談とは、被害弁償に加えて被害者からのお許しをいただくことをいいます)。
器物損壊罪は、他人の物を損壊するわけですから、その物の財産的価値が被害ということになります。
財産的価値とは、通常は金銭的な交換価値を意味しますが、例外的には、所有者・占有者にとっての主観的価値が、被害額の算定に当たって考慮されることもあります。
仮に被害者のお許しがいただけず、示談が成立していないとしても、財産的価値の損失が回復されていれば、被害弁償はなされたことになります。
7.器物損壊罪を犯した場合の対処法
器物損壊罪は、被害者の告訴がなければ不起訴で終わりますし、被害者との示談成立あるいは被害弁償がなされれば、被害者が、告訴を思いとどまったり、告訴を取り消したりする可能性も出てきます。
一方、略式請求により罰金刑となると、前科が付くわけですから、できれば略式請求は避けたいところです。
では、被害者と示談、あるいは被害弁償をするためには、どうしたらよいのでしょうか。
トラブルから他人の物を損壊した場合には、被疑者と被害者とのトラブルが原因となっているわけですから、被疑者本人が被害者と直接、示談なり被害弁償の交渉をすると、被害者の気持ちを損ないかねませんし、また、話をこじらせてしまうおそれがあります。
このような場合にこそ、被害者と冷静に交渉ができる弁護士に依頼すべきです。
弁護士であれば、被害者の気持ちにも配慮しながら、被疑者の反省と謝罪の気持ちを伝えるとともに、金額も含め適切に対応してくれるはずです。
被害者に対する誠意ある謝罪と、金銭的な賠償措置を講ずることで、早期に示談の成立あるいは被害弁償ができれば、公判請求や略式請求ではなく、不起訴処分となる可能性が高くなります。
刑事事件はスピードが命ですので、もしそのような事件を起こした場合には、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
被害者と示談をすることで不起訴になり、前科が付くことを免れることができる可能性があります。
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